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第1章
忘れ去られかけた土地の記憶

「かなめのもり」が生まれた背景

 

かつてこの敷地には、1階がスーパー、2階が「味の名店街」と呼ばれる飲食店街、3・4階がアパートという構成のビルが建っていました。趣のあるレトロな外観を記憶している人も少なくないはずです。しかし、昭和39年に竣工してから築50年以上が経った旧耐震基準の建物は、コンクリートの破損や鉄筋の露出・錆びつきが見られるなど、深刻な老朽化に直面していました。日常の清掃・維持管理、地震発生時の対応の困難さから、ビルオーナーである株式会社長谷川ビルディングの代表取締役 井上創さんは、建て替えを決意します。

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株式会社長谷川ビルディングの代表取締役 井上創さん

井上さんは武蔵小山商店街が日本有数の規模と常に活気とにぎわいを持つ場所であることに着目し、一般的なタワーマンションなどの建設ではなく、地域性を活かす道を模索します。新たなビルの計画で掲げられたポイントは3つ。

1つめは「会社の永続性」。

事業としての継続性を確保するため、テナント側の利便性や顧客が「来たくなる」魅力的な店づくりを追求しました。旧ビルでの経験をヒントに、テナント内で完結するトイレやゴミ収集の仕組み、有料かつサービス券発行方式の駐輪場などが導入されました。

2つめは「地域への貢献」。

商店街としての機能をより発展させてにぎわいを支え、地域住民に貢献することを目指しました。具体的には、日常生活において「あったらいいな」「便利だな」と思うテナント、うれしさや喜びを感じられるお店の誘致です。

3つめは「地球環境への貢献」。

直感的に人が気持ち良いと感じることを大切にしています。具体的な取り組みとしては、敷地に降る雨の全量を土中に浸透させることで洪水の抑制に貢献し、いずれ、敷地及び屋上全面を覆うこととなる植栽によってヒートアイランド現象を低減しています。これらを、自然素材とリユース素材、成長する植物で構成することで、水と空気が循環し、森の中にいるのと同様の心地よさを生み出しています。

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【before】竣工時のかなめのもり(※㈱長谷川ビルディング様ご提供)

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【after】竣工から約3年で大きく育った木々たち

歴史と記憶に導かれたプロジェクトコンセプト

 

​「かなめのもり」という名称は、この場所に100年前に建立された「かなめ稲荷神社」に由来します。初代長谷川家当主が製氷工場を建てた際に、商売繁盛と地域繁栄を願って建立した歴史があります。旧ビル時代は敷地の奥に隠れ、知る人ぞ知る存在でしたが、造園家・高田宏臣さんの「この神社のある三角形の土地が、地域の水と空気の流れを支える“かなめ”になっている」という言葉から、ビル全体が地域環境の“かなめ”であるというコンセプトへと発展しました。これは、単なる自然環境だけでなく、循環や経済活動の「かなめ」としての役割も担うという多層的な意味合いを持っています。

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かなめのもり稲荷神社

(撮影)栃久保 誠

(執筆)梶田 裕美子

ぐるぐる プロジェクト

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